黒毛和牛の飼育と繁殖を行っている山口牧場。牛の鳴き声が響くほど広い牛舎には、たくさんの牛が飼われています。「こいつ、かわいいでしょ」と、牛のブラッシングをしながら話してくれたのは、山口さん。「気持ちよさそうだね」と牛に話しかけながら丁寧に牛をブラッシングします。
山口さんは、実家を継いで牧場の仕事を始めました。「やらなければいけなかったわけではなく、自分がしたかったから継ぎました。理由は…なんだろう、自然と惹きつけられるものがありましたね。」
牛そのもの一頭一頭と向き合え、成長を見られるこの仕事にやりがいを持っている山口さん。しかし、生き物、命を扱う仕事の厳しさも。「病気や不慮の事故で、また生まれてくる前にお腹の中で死んでしまう場合もあるんです。助けてあげられないときは、辛いものがあります。だから、そういう牛を少なくしてやりたいし、健康に育ててやりたいという気持ちがあります。」牛は、身体が大きく、頑丈そうなイメージですが、実際はとても敏感で怖がりなんだとか。「ちょっとした変化や、例えば音にも敏感です。季節の変わり目には、風邪をひくし、熱も出します。繊細な動物なんですよね。」
「どんなことにこだわっていますか?」という質問には、「『油っこいお肉を食べると胃がもたれちゃうから、1枚か2枚で充分』という人もいます。でも本当においしいお肉は、1枚2枚で止まらない。胃もたれもなく、何枚でもいける、そういう肉に少しでも消費者がたどり着けるように、牛を育てています」
命を産み、命を育て、そしてその命が私たちの血肉になる…そんな大きなお仕事を目の前に見せてもらえました。「お肉になる前に死んでしまう牛もいる中で、食卓に上がったお肉は、その過程を乗り越えてきている。奇跡だなぁ、と思いますね。」私たちは普段食卓に上がったお肉しか見ていません。お肉になるまでにはたくさんの苦労があり、山口さんたち育てる側の努力があることを感じた取材でした。
「僕は、いろいろな道もある中で、この仕事を選んだ。他の道を行っていたら人生は全く違うものになっていたと思う。でも、この仕事を選んで正解だったと思います。まだこれからだけどね。」